zepeのブログ

いつも株を買っては損を抱え込む長期低迷投資家

ジョンソン首相はチャーチル継承者になるか。日英両国の国益は?:9904ソフトバンクGによる英国アームのIPO上場問題(2)

*)存亡の危機から国を救った指導者は国民から好かれるか
 過去の歴史を見ると、国を勝利に導いたなどという大事を成し遂げた指導者は、民主主義国では必ずしも選挙で強い、即ち人気があるという訳でもないようだ。
 第二次世界大戦でヒトラー・ドイツに抗して英国を勝利に導いたチャーチル首相は戦後選挙に敗れ退いた。
 東西ドイツの分断からベルリンの壁を取り除き、この機会を逃さずドイツ統一を成し遂げたコール首相はその後の選挙で敗れ、政権交代した。


国の危機にあって国民一丸となって努力してきた国難から解放された後は、もう新しい時代になったのだと国民はその指導者には飽き飽きし、彼が新たな大権を持つのは見たくない、新しい時代にふさわしい新しい顔を見たいというようなことなのだろう。
 共和制であった古代ローマでも、あるいは民主制であった古代ギリシャ・アテネでも存亡の危機にあった国を勝利に導いた指導者は、反対派からあるいは妬(ねた)まれ、あるいは独裁者になるのではと嫌われ、政権から引きずり落とされたり、あるいは国から追放されたりした-そうした例などいくらでもある。


これが独裁国であれば話が違う。戦争に勝ったりすれば、ますます絶対的な権力を固め、長期政権になることが多い。例えばドイツに勝利したソ連・スターリンがそうである。この例は枚挙に暇がない。


*)プーチンに嫌われるジョンソン首相
 いまプーチンはまさにそうしたことを狙って事を起こした訳である。
そうしたプーチンに英国ジョンソン首相は米国とともに嫌われているようだ。


最近プーチン大統領は思い描いたほど事がスムーズに運ばず、事態が苦境に陥りつつあるせいか、ウクライナの穀物輸出にからめて西側の結束を分断しウクライナ支援をやめさせようともくろみ、西側指導者としきりに電話会談を行っている。イタリア、オーストリア、ドイツ、フランス、トルコなどである。その中に英国ジョンソン首相は無い。フランス・マクロン大統領とは過去何度も話し合っている。イタリア首相は侵攻が始まった当初、西側指導者との接触が無い中、例外的にプーチン大統領を訪れ直接会談している。ドイツはエネルギー源の多くをロシアに依存していることもあって当初ロシアにあまり厳しく当たることはしなかった。
 仏独は適当な線で停戦に持って来られると踏んでいるふしがある。


*)プーチンと対決するジョンソン首相(注1)
 ジョンソン首相はキエフがまだ危険にあるさなか、突如キエフに姿を現して主要西側指導者としては最初にゼレンスキー大統領と直接会談し、マスコミ・ニュースに身を露呈した。フィンランド・スウェーデンがそれまでの中立政策を棄てNATO加盟を決定した時、正式にNATOメンバーになるまでにロシアに侵攻されるのではという危惧を抱くのに対して、即座に英国は同盟を結んで安全保障すると申し出た。英国はもちろんNATOの核心とも言うべき最も中心的なメンバーである。


ロシアはロンドンに核攻撃するとか言ったり、最近は英国人捕虜を裁判で死刑宣告するなどと、殊更に英国をいびり交渉の取引に使う材料を作っている。これなどは中国がしょっちゅう行っている得意なお家芸である。あるいは韓国の前大統領文在寅氏がよく使う手である。こうした発想と手法はその国の文化・国民性を反映する。


EU離脱というおおそらごとを成したジョンソン氏。果たしてそれが正しい決断であったか、誤りであったかは論議の分かれるところであり、まだ結論を出すことのできるところではない。しかしそれとは別問題として、彼のめざす英国の主導性、国際社会で果たす役割、とりわけ西欧型民主主義陣営の発展と安全保障に関する認識と行動の方向性は正しいものと思う。


*)チャーチル首相とジョンソン首相
 チャーチルは政治家になる前は軍人であって海軍相などを勤めていたが、ゲルマン民族の生活圏の版図拡大を唱えて、今日のプーチンのようにドイツ系住民在住地域の併呑拡大を図るヒトラーに対して早くから警鐘を鳴らし、当時欧州で主流だったヒトラーに譲歩する融和策で平和を勝ち取ったとする政治家・世論に対し、強硬な反対派だった。その後、ヒトラーはドイツの軍事力の優越性は今が頂点でこの後は差が縮められるとして戦争に踏み切り、英国は直ちに宣戦布告をしてチャーチルは首相として第二次世界大戦下の英国を指導した。


ジョンソン氏は政治家になる前、新聞記者などしていた時期もあって、その頃からEU離脱を夢見て曲筆するようなこともあったようだ。経歴は異なるが、ジョンソン首相もまた反ナポレオン、反ヒトラー、反スターリンと続く、英国の伝統的大陸均衡策・世界規模でのパワーバランス政策を奉じる反共政治家のように思える。


チャーチルは戦後、スターリン支配下で膨張する共産圏を「鉄のカーテン」と呼び、警戒を怠らなかったが、ジョンソン首相にはこうした血が、反共かつ英国の伝統的大陸政策を信奉する血が流れている...-ように思われる。


フランスのドゴールは第二次世界大戦中ロンドンに暫定亡命政府を作って活動し、大戦終了後、全土を占領されとかく無視されがちだったフランスの権益を米英に対して強硬に申し入れて戦勝国主要メンバーに割り込み、大統領になったが、反対意見が現れると、また国が自分を必要とする時にと言ってあっさり身を引いた。植民地アルジェリア紛争で国が混乱に陥った時に再び政界に復帰して国論をまとめ、強力な権限を持つ大統領制度を導入し、偉大なフランスを呼号して米国および英語圏諸国と張り合った。ドゴール時代としてはむしろこちらのほうが著名である。


*)アームを英国企業、英国市場上場に留めたい英政府・ジョンソン首相
 EU離脱に伴い、多くの金融機関・海外民間企業が英国を去り、米国ニューヨーク・ウォール街、ドイツ・フランクフルトと並ぶ世界の中心的金融センターである英国ロンドン・シティーは凋落していく方向にある。
 ジョンソン首相としては英国の至宝とも言える世界的半導体設計会社アームが英国企業であり続け、またロンドン証券取引所を主要上場市場とする体制を維持したい。
 ちょうど札幌アンビシャス市場に上場する2928ライザップのようなものである。札幌市場の取引のほとんどをライザップが占めている。


*)政治・外交問題の一面:金では買えない問題
 本件は政治・外交の問題という一面がある。
外交においては、ものになるかならないかわからないが、種を蒔いておくというのは、外交が成して置くべき一役割でもある。
 後になってそれらが芽が出る場合もある-もちろん出ない場合がほとんどで捨て石となるのであるが..。
 明治維新に際して、それまで牢屋に放り込んでいた開明的で反幕的な活動をしていた藩士を、うちも勤王派でしたと突如藩代表として表舞台に押し立てる例など、いくらでもある。


しかし利潤を追求するファンドはそんなことは関係無い。あくまで利潤を追求しなければ却って投資家を裏切ることになる。


*)英国上場はファンドあるいは孫社長にとってメリットはあるか。
 英国上場選択はあくまで利益を追求するファンドからの視点ではない。ファンドはこうした観点に惑わされてはならないというのは当然の帰結ではあるが..。
 もし英国市場上場に踏み切れば、世界が注目し、孫社長あるいはその決断の是非について恰好のニュースのネタを提供することになるだろう。
 英国政府としてはもちろん大歓迎だ。EU離脱で逃げていくばかりの金融・産業界がロンドン市場を見直すことになる。
 英国国民は日本、あるいはソフトバンクG、孫社長に好意的・親日的印象を抱き、将来会社買収の案件が出で来たったときに、日本なら買収されても大丈夫と信頼感が醸成されることは間違い無い。
 中国・ロシアと違って、信頼性(Reliability)は互いに尊重する国民性であり、財政・投資では重要な資質でもある。


*)二度と無い、金では買えない問題
 いま孫社長は順風良好な環境にある。ナスダック上場でも英国市場でも孫社長の胸先三寸次第である。英国からは首相自ら直々に依頼して来ている。孫社長は引く手数多(あまた)の中で、自分が選択肢を握っている。


ただ人生においても投資環境においても常に物事がうまく行くとは限らない。
 例えば、これからさらに巨大になるかと思われた中国アリババやユニコーン企業、あるいは中国国内の不動産企業等はいま縮退を余儀なくされている。
 英国上場は投資会社としてNASDAQ上場よりは利益は小さいものの、アリババのような縮退ではない。発展である。そしてソフトバンクGにとって好意的な環境が継続する。


現在のような状況はなかなか金で買えるものではない。状況が変われば、英国首相に懇願されるようなことは恐らく二度と無いだろう。通常はこちらから依頼しても問題にされないか、しかるべき部署で相談せよと門前払いを喰らうのがオチである。


今のような状況は金で買える問題ではない。


*)投資会社が財政優先で高度IT会社の技術力に手を入れるのはどうか
 ナスダックIPO上場のために、アームの会社内の人員整理も行ったようである。いまアームは収益に特別問題がある訳ではない。なお発展すべきものである。親会社である投資会社が高度技術会社の中身にそれほど口を差し挟む必要もないのではないか。


AMD、マイクロソフト、テキサスインスツルメンツなどと同じ場で収益競争にしのぎを削るよりは、今まで通り、一歩離れた場に温存して好きなことを自由にやらせていたほうが合っているのではないか..、という気もする。これは素人意見だが。


*)日本はアームの株式保有・安定維持と英国のTPP加入を迅速に推進せよ
 孫社長は経済界の資本の論理、投資の利潤・回収の論理で動くのであり、政治的観点から判断するのではないだろうが、本件は日英それぞれの国益と安全保障に関与する問題でもある。


資本の論理、投資会社の論理とは別に、国益・安全保障の観点から言えば、アームの保持は日英両国にとってきわめて重要である。半導体技術力の保持・育成は日米欧にとって絶対的な重要性を持つ。


最近、英国のTPP(環太平洋経済連携協定)加入問題に関するニュースをあまり聞かないが、どうなっているのだろう。愚図愚図しているうちにウクライナ危機が起こった。全加盟国一致が原則である。できるうちに迅速に手続き交渉を進めるべきである。事態が変わって介入に反対する国も出て来る可能性もある。


日本は英国のTPP加入を迅速に推進すべきであり、同時に半導体設計の超優良会社アームの安定維持と英国経済、英国市場活性化への寄与を図るべきである。
 日銀は国内・国外の株式を買入れているが、アームの株式を買い込むべきであり、その株式を一定量保有すべきである。




(注1)

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