zepeのブログ

いつも株を買っては損を抱え込む長期低迷投資家

人道への罪でプーチン大統領は告発できるか。(1)マリウポリ攻防は勝敗の分水嶺

*)国の将来を損ないかねないゼレンスキー大統領の安全保障案
 ウクライナとロシアの停戦協議進展などと新聞には報じられているが、そこに出て来たウクライナ・ゼレンスキー大統領の安全保障案。違和感を覚えないだろうか。
 米英のほかに、トルコ、イスラエルその他があり、ロシア、中国まである。NATOと反NATO諸国を一緒くたにした構成。これを提案としてプーチン大統領に検討を委ねるというのだが..。まるで世界の紛争・対立の縮図をウクライナの国の存立に持ち込むようなものだ。たとえこの機構が成立したとしても纏まるはずが無い。
 NATOのように加盟国数を増やしたいのか。NATOは米国を盟主として政治・財政・軍事的に確固とした基盤を持ち、対ソ・対露という目的のために強いリーダーシップのもと、明確なベクトル(指向性)を有している。
 国政を、国の将来を、国の安全保障を、各国の利害争いの場にするようなものだ。理解しかねる。


*)多数の犠牲者を出して徹底抗戦。西欧型民主主義を志向、ロシアとは永遠に訣別。
 ウクライナはロシアの侵攻に対して、多数の犠牲者を出しながら徹底抗戦。もはや後戻りはできない。西欧型民主主義と自由を志向し、ロシアとは永遠に訣別である(注1)。
 ゼレンスキー大統領はその確固とした意志と明確で真摯な姿勢、情報発信力、説得力ですぐれた指導者である。国を焦土化する以前に適当なところで今は妥協するという選択肢もあり得たとは思うが、ここまで血を流し徹底抗戦する事態に至っては、もはやロシアとは兄弟国ということは決してあり得ず、西欧型自由と民主主義を志向する国としてロシアに永遠に訣別することとなった。


*)侵入されやすく防衛しにくい地勢の国土
 現代のウクライナの地を、古代からスキタイ、ゲルマン、フン、モンゴル等多くの遊牧民族が東から西に通り過ぎて行った。たまにナポレオンやヒトラーの軍隊のように西から東に短期間通り過ぎて行ったこともある。
 地勢的には国の防衛に都合のよい境界線を形造るような地形は無く、平原が地続きにつながり拡がっているばかりである。一旦事があった時には、安全保障構成国が小田原評定よろしく議論・紛糾しているうちに、敵軍(ロシア軍)は侵攻してしまっているだろう。国の安全は現実の前には無力で保証できない。
 ゼレンスキー大統領の国の将来の設計能力、国家存立の基盤形成案は少し疑問符が付くところもあるように思う。


*)マリウポリ攻防は(外交交渉の上でも)勝敗の分水嶺
 アゾフ海出口マリウポリ確保攻防は首都キエフ攻防とともに、勝敗を分ける重要な分水嶺である。


*)飛地までの陸続きの回廊
 マリウポリを攻略すれば、ロシアは現在は飛地のヤルタ半島まで分断されることなく、陸続きでつながることになる。


*)マリウポリ後のプーチンの野心-黒海湾岸を自国領としウクライナを内国化する
 マリウポリを確保すれば、次の目標はヤルタ半島西方の重要な港湾・軍港都市オデッサを攻略することである。ここが確保できれば、その西にあるモルドバ東方ドニエストル川東岸の親露派地区「沿ドニエストル共和国」と陸続きの回廊で結合することができる。
 これが成就するに至って黒海沿岸はすべてロシア領になり、ウクライナは黒海への道を塞がれ、輸出入に重要な海への出口を持たない内国と化し、自国から小麦は直接輸出できなくなる。陸路ロシア領となったオデッサまで運搬しそこから輸出。あるいはポーランドを北上しバルト海から輸出。主要な輸出先であるアフリカ、中近東には明らかに黒海からのほうが近い。バルト海からだと北海・大西洋から地中海・スエズ運河か、南下してアフリカ南端喜望峰を大廻りすることになる。地政学的にも経済的にも縮減した小国・劣等国に成り下がることになる。
 ここにプーチンにとってウクライナ全土の併合ではなくとも、戦略的目標の満足すべき一達成と見るべき姿になる。首都キエフ制圧、ゼレンスキー大統領政権転覆、親露派傀儡政権樹立という当初の目標から転換したとしても、国内向けには今回のウクライナ侵攻の意義と成果について、アピールし正当化できることになる。場合によっては一旦矛を収める理由にすることができる。


逆にウクライナがマリウポリを保持し続ければ、ヤルタ半島を挟んで東方のアゾフ海出口マリウポリと西方のオデッサを確保することにより、ウクライナは黒海への出口を保持する地政学的に強国であり続ける。マリウポリはどうしても保持したい。


*)飛地までの陸続きの回廊獲得は隣国を威嚇し侵攻を正当化する常套手段
 こうした飛地までの陸続きの回廊を攻略して自国領土化し結合する政略は、常に独裁者の掲げる目標となり、強国が隣国を威嚇し侵攻を正当化する口実に使う常套手段である。


*)ドイツの東プロイセンへの東方進出
 中世以降ドイツ人の東方植民が行われ、ドイツ騎士団領などバルト海沿いに東方へ進出した。哲学者カントは時間に非常に精確で、住民はカントが散歩で現れる姿を見て時計の針をを合わせたという伝説は、当時の東プロイセンの首都ケーニヒスベルグでのことである。ここはその後ソ連、現在ロシアのカリーニングラードとなっている。(今回のウクライナのヤルタと同様ロシアにとっての飛地であり、その途上にあるバルト3国のエストニアとポーランドは警戒している。)
 第一次世界大戦における帝政ドイツの敗戦で、ポーランドがバルト海出口に通ずるポーランド回廊が設定され、東プロイセンは飛地となった。
 ヒトラーは政権を握った後、ラインラント進駐、オーストリア併合、ドイツ系住民が多かったズデーデン地方割譲の後、東プロイセンへの連絡路を要求し断られるとポーランドへ進撃して第二次世界大戦が始まった。スターリンのソ連軍はほぼ同時期に東から侵攻し、ポーランドを二分割した。その後、カチンの森でポーランド軍将兵の大量虐殺が発見されている。


*)ヒトラーの手法に似る
 マリウポリを攻略すれば現在飛地となっているヤルタ半島まで分断されることなく、陸続きの回廊で結ばれることになる。こうした目的のために、親露派政体樹立・ロシア領編入をめざすプーチンの手法は、ヒトラーに似る伝統的手法に近い。


*)孤立するマリウポリ
 ロシア軍はウクライナに攻め入ったものの、当初の見込みよりもウクライナ軍の抵抗力が強力で思うように進行していない。近接戦では軍隊の損失が大きいため、長距離ロケット砲撃やミサイルを多用するようになった。
 ウクライナ東部でロシアは前線での戦闘による消耗を避けるために、遠方からのミサイル打込み、空爆など、照準を定めない無差別攻撃を行っている。
 戦略的要所マリウポリはいまや孤立していて、もはや市内への軍事的支援は難しいだろう。
 どうすればよいか。


*)露軍の後方補給線を断て
 一つの可能性は露軍の後方を攻撃し補給線を断つことである。前線の軍隊を叩く作戦とともに、軍隊背後の兵站・補給線を潰乱すべきである。
 ロシア軍にとっては戦線が伸び、広い地域で防衛に兵を割かねばならなくなる。都市にミサイルを打込むほどには敵方の対象は大きくなく反撃には手を焼く。
 衛星写真では前線に向かうロシア軍が長い車列をなしている。効率を上げるためには畑や平原ではなく道路を利用せざるを得ない。特に春の雪解けの季節にはぬかるみになって道路を使用せざるを得ないということだが、その季節は過ぎただろうか。前線での対戦車攻撃と同等に、後方での露軍車列への攻撃は効果的である。


前線でロシア軍と対峙して戦うのも、軍隊背後の補給線を潰乱させるのも、ロシア軍の威力を減退させるのにはそう変わらないだろう。背後の補給線を狙うのは、最前線に劣らず効果的である。


(注1)

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