zepeのブログ

いつも株を買っては損を抱え込む長期低迷投資家

日本主導国際戦略の展開=米国世界戦略における不動の核心:安倍氏死す(1)

*)安倍氏死す-置き換えの効かない国家の損失
 安倍晋三元首相は、ほかの日本人の誰にもできない国際的枠組みを構想し、世界に提起し、実現し、推進した。
 誰もが予期せぬ短絡的な犯行による凶弾に、この(令和4年)7月倒れた。
国際世界をリードしたかけがえのない指導者の、取り返しの効かない損失である。


*)習近平国家主席3期目続投後の台湾有事と自由で開かれたインド太平洋構想
 この秋予想される中国習近平国家主席の従来の規定を変更しての3期目継続就任。
現在、ウクライナ侵攻戦役中のロシアに対して外交的・経済的支持継続してはいるものの、軍事的支援などのそれ以上の表立った支援はせず、米日欧との対立の裏でロシアを財政的に助けると称して石油・天然ガス等の資源を安く買入れ、何食わぬ顔をして実利を得ている。一方3期目就任に格別の邪魔が入らないよう、ひたすら時が過ぎゆくのを待ち続けている。
 3期目就任確定後本格化するであろう台湾有事。欧州ウクライナ紛争は長引き、加えて地球規模では台湾・南シナ海・東シナ海・太平洋における中国覇権膨張主義を巡る緊張状況が差し迫ることだろう。


*)日本主導国際戦略の展開
 公海である南シナ海での中国の力による一方的な進出・自国領海化。さらに米国と対峙し、世界覇権を目指す中国に対して、安倍氏は日米同盟を常に強化堅持し、安倍氏が提唱して「自由・民主主義・法の支配などの基本的価値を共有する、日米豪印4カ国戦略対話(クアッド)」を発足させ、インド太平洋地域における民主主義陣営の連携を構築した。


また経済的にはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)を締結・発足を実現し、自由貿易圏経済体制を推進した。


習近平中国は一帯一路政策で財政的援助と称して債務の罠に陥れ、軍事的・戦略拠点を拡大している。
 それらは南シナ海周辺のカンボジア・ラオス等の東南アジア、ソロモン諸島・キリバス等の太平洋島嶼国、パキスタン・スリランカ・モルディブ等の南アジア・インド洋島嶼国、イラン・ジブチ・タンザニア等の中近東・アフリカ、ギリシャ・東欧・イタリア等の欧州諸国などである。


こうした中華膨張主義の野望に対して、法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋構想を創出し、中国の力による一方的な進出・自国領土化に対して自由主義陣営を結束して対抗し、また香港の自由抑圧に続く台湾有事も見据えて、G7首脳会議では、各国首脳と熱意をもって交渉・提議した。
 退陣することにはなったが、その結果、英国ジョンソン首相はロシアの侵攻に対して最も早くからウクライナを強力に支援し、フィンランド・スウェーデンのNATO加盟に対しても対ロシア安全保障をして推進しているが、インド太平洋地域にも空母打撃群を派遣し日本にも寄港させた。同じく民主主義陣営であり、太平洋にニューカレドニアやタヒチなど海外領土を持つフランスも海軍をインド太平洋・日本に派遣した。続いて中国と経済的なつながりが最も大きい独海軍もインド太平洋に回航させることとなった。


*)国際社会で主導性を発揮し、積極提議
 単に提議するだけならどの人間にもできる。しかし普通は一顧だにされないか、聞き流され足元を見られるだけだ。しかし氏には熱意があった。危機に飛び込み対応解決策を練り提議する構想力があった。納得させる説得力と現実性があった。実現に持ち込む実力と行動力を兼ね備えていた。国難な事態に追いやられている人々が待ち望む救済案を形にする構想力があった。各国指導者・責任者と連絡を取り、腹を割って話し、交渉するネットワークと、行動に踏み切らせる説得力と影響力があった。


*)米国世界戦略における不動の核心
 インド太平洋を俯瞰する世界地図を開いてみよう。
米国指導者と価値観・方向性を共有し、米国の世界戦略においてその企画力・影響力・実現力について信頼し依拠し得る活性点が、地図上のほぼ中央右寄りに輝きを放って存在している-それが安倍氏である。
 氏は米国の世界戦略を遂行する上で、志向する目標を同じくし、常に信頼し得る不動の核心であった。


*)巨星墜つ
 この核心が失われたことは、米国だけでなく、日本、台湾、そしてインド太平洋諸国、欧州も含む自由主義陣営すべてにとってかけがえのない損失である。新たに同じような活性点を再度作れるだろうか。現状は輝きは消えたままと言ってよい。
 まさに「巨星墜つ」という表現がふさわしい状況である。


*)他で置き換えの効かない指導者
 氏ほどの構想力と行動力を持ち、世界の指導者と直接意思疎通できる名声・知名度・ネットワーク・行動力を有し、米国の戦略に近い歴史観を持つ政治家はほかにいない。
 氏に代わる構想力・交渉力・コミュニケーション能力・海外要人との人的ネットワーク、熱意・影響力・牽引力-どれを取っても氏に代わり得る人物は今の自民党あるいは日本をざっと見渡しても見当たらない。
 この意味で日本だけでなく、インド太平洋諸国、とりわけ米国・台湾にとって核となるべき人材の喪失は大きい。今後の中国対抗網の構想における活動の核心を失って再構築が必要になった。


*)道半ば、途上で死す
 こうした国際関係の中で、台湾有事・力によるインド太平洋地域における現状変更に対する日米豪印の対応を、米国とともに構想し、実行する核となる存在。氏は首相退任後の自由な立場でこれから国際的にさらに活躍するところであった。
 氏が主導しこれかさらに展開しようとしていた戦略は途上で一旦中断することになった。
これからまだまだ活躍し新たな国際的影響力を発揮していくところだっただけに、悔やんでも悔やみきれない損失である。
 英国・台湾のTPP加盟の実現、将来的には自由で開かれたインド太平洋構想のクワッドに英国を加えた日米英豪印体制を実現しておくべきであった。


*)国内外の影響力の喪失:米国
 とりわけ中国を最大の対抗勢力と見なす米国にとっては痛手である。
安倍氏の志向するところと、米国の対外戦略はほぼ一致する。
 この地域における米国にとって最も信頼性のおける、そして一貫して変わらぬ堅忍不抜の強力な自由主義国家-それは日本である。対中国世界戦略を構築する上で、日本は最大のパートナーである。
 現役の首相ではないが、安倍氏と意思疎通を取り、氏の考えを聞き、同意を得ておくことは、日本の対外姿勢を好ましいものにする上で重要である。
 氏は国内外で最も大きな影響力をもつ存在である。構想を案出し、実現すべく提起し、各国首脳に働きかけ、実現に持っていく。
 これだけの構想力と行動力を持ち、世界の指導者と直接意思疎通できる知名度・ネットワーク、さらに説得力を有し、米国の戦略に近い歴史観を持つ政治家はほかにいない。
 国際的に連携し安全保障政策を進める戦略において、インド太平洋地域の最も信頼できる不動の核心であり、その存在は自由主義陣営の資産であった。


 氏を失って台湾有事などが直近に迫るいま、米国は想定が大きく狂ったことは間違いない。この喪失の穴を埋めるべく、再構築を迫られることになった。しかし氏ほどのレベル達成は難しいのは明らかである。


*)国内外の影響力の喪失:台湾
台湾にとっては、
 岸田首相は台湾を訪れることはできない。公式には日米ともに、台湾は中国の領土の一部であるという中国の主張を従来から前提としているからである。
 しかし首相退任後の安倍氏はできる。事実既に訪れているし、今後も訪れる予定であった。
 香港の自由が奪われ、台湾有事が目前に迫っているいま、氏ほど行動力と影響力があり、国際的な対中戦略構築と実行性を実現できるのは氏を除いてほかに無い。台湾にとっては替えの効かないきわめて痛い損失である。


*)国内外の影響力の喪失:日本
 これは日本にとっても同様である。
いま中国とロシア海軍は共同で日本領海すれすれに日本列島周回行動を繰返している。いつでも攻撃できるのだという、日本に対する見え見えの示威・威嚇である。両国空軍もまた領空侵犯すれすれの行動を行っている。日本もなめられたものである。状況によってはいつでも接触、不可避的に衝突が起きても不思議でない。台湾有事・北朝鮮有事などの状況によっては一触即発、さらに戦闘状況が起こり得る可能性がある。
 こうした事態が起きた時、日本はどのような対応を取るべきか、海外自由主義陣営とどのような連携・同盟を構築すべきか、こうした際に氏の経験と歴史観・世界観に基づくアドバイス、世界の指導者との国際ネットワーク、強力な影響力、行動力は必須のものであった。
 この損失は大きい。日本はこれほどの能力を再構築することは難しい。しかしそうした現実に至ったいま、その方向に努力しなければならない。


*)米国ブリンケン国務長官弔問に訪日-日米同盟・自由主義/民主主義陣営の再構築
 安倍氏が凶弾に倒れたのは、G20外相会合がインドネシアで開催されている最中だった。米国ブリンケン国務長官は会議終了後その足で、弔問のため訪日し安倍氏家族・日本国民に弔意を表した。個人として、米国として丁寧な弔意の表明である。
 時を失することなく岸田首相とも会談し、日米同盟の結束、インド太平洋地域の安全保障への日米の関与等をあらためて確認したものと考える。
 米国の姿勢に謝意を表すべきとともに、これらはまた日本にとって必要なことである。米国も安倍氏を失った今、最も重要なことは、日米連携の再確認と自由主義/民主主義陣営の再構築が最優先の先決事項である。この意味でブリンケン氏の弔問と訪日は時宜を得たものであった。


多くの政府・要人が弔意を表した。国連、米国ホワイトハウスほかが半旗を掲揚した。安倍氏の国際的な名声・影響力の大きさがわかる。詳細を記するのは本稿のなすべきことではないが、気付いたところでは:
 台湾頼清德(らいせいとく)副総統も私人として訪日し、通夜・告別式に参列した。
 「日本に学べ」という”Look East”政策を推進し、マレーシアを経済発展させたマハティール元首相も弔問に来日した。
 キューバも半旗を掲げた。過去には昭和天皇が崩御した際、当時のフィデル・カストロ首相が指示して半旗を掲揚している。


*)岸田首相-将来に対して布石を打つ
 安倍政権・菅政権を引き継いで、岸田首相は日米同盟を堅持し、日米豪印クアッドを開催した。日本開催は米国が提起したものであり日本重視の表れでもある。バイデン大統領は会談後の記者会見で台湾有事が起きた際には米国は干与するのかという質問に対し、この質問を待っていたかのように、”Yes”と明確に答えた。その後すぐに米国政府当局は台湾政策は従来通り変わりないと訂正した。これまで同様な失言をバイデン大統領は繰返しているが、今回はインド太平洋地域に来て、これまでよりもはるかに明確に”Yes”と明言している。
 中国の力による一方的な現状変更・膨張政策に対して、岸田首相および日米豪印クアッドは自由で開かれたインド太平洋構想を推進することで一致している。


G7やNATO会議において、ロシアによるウクライナへの一方的な侵攻が始まって以来、法による支配・国際秩序を揺るがせる暴挙だとし、これを看過すれば同じことがインド太平洋でも起き得るとして、岸田首相は、氏が積極的に主唱して各国首脳を説得し提言したものか確認はしていないが、G7・EU・NATOは中国という具体的名称を上げて、インド太平洋地域での安全保障に今後関与するという方針を引き出した。
 これは台湾有事を含む、近未来および将来的に起こり得るであろう国際危機に対する予防的措置を講じるものであり、将来への布石を打っているのである。
 緊張、紛争、有事、戦争、存亡の危機などはその時になってから対処するのでは遅い。あらかじめ手を打っておくのは国の指導者が行うべき必須の最重要事項である。


この意味で岸田首相の就任以来の外交は、今後起き得るであろう国家の危機に対する安全保障、予防的措置、将来への布石・投資であり、こうした路線は安倍氏もまた同意する日本が採るべき路線であることは間違い無い。
 岸信介・安倍晋三首相とともに、岸田首相は日本の安全保障の地歩を固める吉田茂以来の池田勇人首相から続く保守本流の宰相の道を歩んでいるように思われる。

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