zepeのブログ

いつも株を買っては損を抱え込む長期低迷投資家

高速増殖炉:日本断念、中国建設中と(2)-フィージブル(実行可能)か??

*)実現には二つの人類未踏の山を越えねばならない
 一つは信頼性のおける液体金属ナトリウムの冷却システム、二つ目は原子炉本体の、高速中性子によるプルトニウム増殖核反応の制御と臨界(入力エネルギーまたはプルトニウムよりも出力エネルギー/プルトニウムが小さい方から、等しく=臨界になり、より大きくなる方向への境界)の達成、それに続く、より大きなエネルギー出力の実現である。


ともに小規模、一時的に実施されているが、常時・安定的に・信頼性のおける運転は、人類がまだ実現したことのない革新技術で、両方成功したとしても、さらにその掛け合わせでの運転コントロールを実現せねばならない。
 きわめて難易度の高い、それだけに挑戦し甲斐のある夢のある目標とも言える。
これを一気にもんじゅで実現しようとしたのである。


*)ナトリウム冷却は概念倒れで失敗の元凶
 ナトリウム使用はいかにも魅力的である。
だが、たかが絞めネジ周りあたりからの漏れで火災が発生などというささいな問題で、プロジェクト全体の開発進展がストップしてしまうというありよう-どんなものだろう。
 野心的で夢はあるが、まるで綱渡りをするような運転性、少しの漏洩でも重大事故とされ全体が脱線してしまう。これでは前に進めないではないか。


*)もんじゅを建設してしまってからでは、後戻りして抜本的な構造変更は不可能
 原子力発電所の実用化は、実験炉、原型炉、実証炉、実用炉(商用炉)の過程を経て商業運転実現に至るのだが、原型炉もんじゅが成功すればその先、商用運転への第一歩である実証炉、その大型化版である商用炉に至る予定であった。
 しかし実験炉「常陽」を経て、原型炉「もんじゅ」を建設してしまってからでは、構造上の抜本的改変を図るにせよ、冷却媒体の材料を検討し直すにせよ、もはやシステム構造は決まっていて、後戻りはできない。


*)フィージブルかどうか
 一応、実験炉常陽で経験を積んで、技術を確立したというのだが、あくまで次の原型炉もんじゅに進むための研究レベルでの達成ということで、運転を繰返しても問題なく再現できるというレベルではなかったのではないか。それが証拠に、トラブルでその後の運転はストップしたままで二度と運転されていない。


 今から考えれば、一足飛びに巨大な高速増殖炉建設に進むのではなく、まず液体金属ナトリウム冷却システムだけの装置で、フィージブル(Feasible:実行・実現可能な)かどうか試作・検証すべきであった。実現の確約が得られたなら、実験炉建設・試験に進む。困難点が克服できないなら、全体システムの設計を根本から練り直す。実験炉常陽以前、あるいは少なくとも実証炉もんじゅ以前の時点なら、後戻り・設計概念そのものの根本的な変更も可能であったろう。


*)所員の士気低下-人生の最盛期を無為に過ごした技術者・研究者達
 ナトリウム冷却系の様子を見ながら、綱渡りするようなおっかなびっくりでの運転では、たまにうまく行って臨界に達したなどと糠(ぬか)喜びをしても二度と再現できない。夢よもう一度と繰返すようでは、信頼性も無く、フィージブルなしろものではない。
 連続商用運転できるほど自家薬籠中の物にするのでなければ、安心して見ていられない。
結局、主目的のプルトニウム増殖核反応の専門家らは、ナトリウム冷却担当の技術者ではないのだから、なにもすることが無い訳だ。こうして時間ばかりが過ぎてゆく。
 所員の士気が落ちていると、原子力規制委員会が指摘するのは当然である。かくして当初の目的をほとんど果たすことなく、廃炉にすることに立ち至った。


多くの能力のある科学者を結集しながら、人生の中で最もその能力を発揮すべき働き盛りの時期を無為に過ごし、その意欲と能力に花を咲かせることなく、浪費と徒労に終わらせ、その役割を終了する。--愚の骨頂と言わねばならない。


*)本論(核エネルギー反応)以前の周辺技術(冷却媒体)でストップしたまま、時間・国費・人材の浪費
 インターネットの記事によれば、
投じた国費1兆2千億円、建設以来22年間のうち、稼働した日数はわずかに250日。
 -この体(てい)たらくはどうだろう。残りの7750日は何をしていたのだ。本業に勤(いそ)しむことなく、ナトリウム漏洩の修理ばかりしていたと解釈されても致し方ないだろう。
所員数は平成22年度269名とある。
 -時間・国費・多数の優秀な技術者/研究者浪費の愚である。


そもそもの出発点(ナトリウム冷却に基づく設計概念)自体が誤りであり、ひたすら誤った方角に走り続けた結果、その後のすべての努力・エネルギー・経費が無に帰したのである。


すべては出発点のシステムモデルそのものが原因である。
-もんじゅの壮大な失敗-と言わねばならない。


*)ナトリウム冷却に固執していては、一歩も進めない-最初の概念からやり直し
 原子炉とは無関係にナトリウム冷却システムだけの商用装置を開発し、民間企業が販売する。そこまで繰返し・多頻度・無頓着の使用でも安全性に問題無しという信頼性が得られるシステムが確立しなければ、原子炉への適用は無理である。
-これが成し遂げられるか?。はっきり言って、無理だろう。


システムの概念そのものを変えようとすれば、もう一度、出発点に戻って一から作り直しである。


*)抜本的なシステムの再検討
 フィージブルなシステムを実現するにはどうすればよいか-以下の(1)構造、または(2)材料からのアプローチがある。
 (1)(ナトリウムを使用するなら)冷却機構の構造の改変
 (2)(ナトリウムに替わる)冷却媒体材料の再検討


(1)構造機構の再検討-事故・失敗に対する補償システムを装備
 失敗・損傷・破壊が絶対に無いシステムはあり得ない。自然災害、地震、うっかりミス、経年劣化、意図的破壊(ミサイル打込みなど)等々、絶対に無いということは無い。逆に言えば、必ず起こり得る、ということである。
 ナトリウムの場合、これらがごくわずかでも起これば、たちまち発火し高温状況を来たす。原子力施設では厳禁事態である。たとえナトリウム漏洩が起きても運転がストップしない補償システムを装備した構造を確立する必要がある。
 例えば、魔法瓶のような二重壁にする。真空あるいは不活性ガス充填の二重隔壁構造にして、ナトリウムが漏れ出ても空気や水分と触れないようにする、等..。


(2)冷却媒体材料の再検討
 冷却媒体として、たとえプルトニウム産生効率を低下させるとしても、化学的に安定で信頼性の置ける物質を採用する。
 ナトリウム(Na:融点98C,沸点880C)の替わりに、鉛(Pb:融点330C、沸点1750C)を用いた鉛冷却系高速増殖炉は、世界的には試みられた実績はあるらしい。核反応物理特性ではナトリウムにはパフォーマンスは劣るが、少なくとも取扱い上の安全性・信頼性は全く問題無い。冷却系のトラブルに足を取られて肝腎の高速増殖核反応運転に全く進めないということは無いはずである。
 液体金属では、身近なところでは水銀(Hg:融点-39C、沸点350C)がある。かって古代中国の秦の始皇帝は、自ら生前中に作った陵墓の地下宮殿内に水銀の池を作ったという。本件の使用には沸点が低過ぎるだろう。
 鉛に物性が近いものとして、錫(スズSn:融点230C、沸点2600C)がある。
ガリウム(Ga:融点30C、沸点2200C)に至っては、体温で融解するほどの低融点材料だが、沸点は2000C以上あり、液体温度領域がきわめて広い。化学的に比較的安定で、生体親和性も問題なく、かって歯科材料として水銀を用いたアマルガム合金の為害性が懸念された時、代替材料としてガリウム合金が開発され使用されたことがある。核反応特性が適性かどうかは別として、現在は青色レーザーにも使用されているGaN(ガリウムナイトライド=窒化ガリウム)などの化合物半導体として多用されている。


*)フィージブル重視の新規開発事業:高エネ研・アルミニウム製シンクロトロンの開発-参考までに
 放射線を発生させ利用する機器では、空気中で減衰しないよう真空中を電子線が通過する。これら真空機器の材料は高エネルギー放射線で照射されると、核反応を起こし、同位体が生成され放射化する。
 放射性化した材料では、同位体の半減期が長いほど、強い放射線を発生し続けるから、放射能汚染・放射線被曝に注意しなければならない。被爆を最小限に押さえるためには、術者は防護をし、できるだけ距離を取り、短時間で作業を終えることが求められる。


通常、真空機器材料として鉄鋼・ステンレス合金や黄銅などの銅合金が用いられているが、これらはいずれも半減期が長い元素からなり、一旦放射化すると残留放射能が強く、扱いがきわめてやっかいである。
 一方、アルミニウムは、半減期が短く、放射能は急速に低減するから、取扱いが非常に楽であるが、強度、融点(660C)、表明硬さ、耐摩耗性、表面性状ともに見劣りし、鉄鋼のほうが優れているのは論を待たない。


シンクロトロン(放射光実験施設)の建設にあたって、放射化の危険性はあるが、従来真空技術での常識に基づく設計概念を引継ぐか(鉄鋼等)、特性が劣り真空材料としては未知であるが、作業性・継続使用のフィージビリティを重視するか(アルミニウム)。
 鉄鋼・銅合金では数回運転したら放射化して放射線量が高くなり、被爆が恐くて近寄れない-これでは仕事にならない。部品の交換、廃棄後の処理も相当な負担がある。


結局、高エネルギー物理学研究所の大型陽子シンクロトロン「トリスタン」の建設にあたって、超高真空材料としてすべてアルミニウム製にすることにした。
 大英断である。強度・真空性能よりも、実際に運転し活用するフィージビリティ=実行可能性をより重視した決断であり、全く新たな技術開発を一から始めなければならなかった。製造企業もその性能要求条件に対応して新たな技術開発を行い、進化を進め、実用化を可能にする技術を確立した。
 実際には純アルミニウムでは強度ほか機械的特性が不十分なので、アルミニウム合金を採用したようであるが、画期的技術革新であり、その後の標準ともなった。


難事業の最先端装置の開発は、関連産業分野への科学・技術振興という波及効果をもたらし、産業の裾野を拡げたのである。

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