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高速増殖炉:日本断念、中国建設中と(1) -概念倒れ・フィージビリティを欠くもんじゅの壮大な失敗

*)中国で高速増殖炉建設とのニュース
 新聞であったか、インターネットであったかを見ている時に、チラっと中国が福建省で建設中の高速増殖炉云々という小さなコラム記事が目の片隅に映り込んだ。
 「高速増殖炉」-しばらく聞かない用語である。このところ新聞紙面などから使われなくなって久しい。


*)日本の国策としての高速増殖炉
 かって(1960-1970年代)、原子力発電が実用化され、大学での原子力工学科や企業界での原子力産業が華やかなりし頃、次世代の原子力発電は、現在の軽水炉から高速増殖炉、そしてさらに核融合炉へと、おおよその発展の順序が夢をもって語られていた。そして2000年には高速増殖炉実用化、核融合炉の臨界実証炉実現などと言っていたものだ。
 夢を実現すべく高速増殖炉の研究開発が各国でこぞってなされた。
しかしフランスのスーパーフェニックスをはじめ、米国、英国、ドイツほか、ほとんどすべてが行き詰まり、開発は中止されるに至った。


世界が撤退する中、日本のみが高速増殖炉の原型炉もんじゅを建設し開発を続行した。なぜか。
 一つには当時、日本は経済大国で引続き予算が取れたこと、また無資源国日本にとってエネルギー源確保は永遠に課せられた必須の命題・国是である。さらに使用済み核燃料処理は差し迫った避けられない問題であり、高速増殖炉運転が可能になれば、廃棄処理せず再利用する核燃料サイクルが実現し、廃棄処理とエネルギー問題が同時に解消できる、などが挙げられる。ある意味、諸外国は日本の技術の進展に期待し見守ったのである。


*)もんじゅの開発断念
 しかし冷却媒体のナトリウム漏れなどの本論の核増殖反応以前のささいな問題で、開発がストップし、何の進展も見せないまま、福島原発事故も起こり、廃炉の決定に至らざるを得なくなった。
 もんじゅの撤退により、日本単独での開発は事実上、諦めたと言ってよい。これだけのビッグプロジェクトが失敗に終わった以上、再度立上げ、同じ轍を踏むという訳には行かないだろう。現在ではむしろ一足飛びに、小型核融合炉の開発が世界的に注目されつつあるように思う。


 何故、世界中の次世代原子力エネルギーの目標であった巨大プロジェクトが、何の成果も出さないまま撤退に至ったのか。振り返ると、激しい化学反応性・発火性が当初から危ぶまれていたナトリウム冷却システムの採用という出発概念モデルそのものが誤りであったと言わねばならない。フィージビリティ(Feasibility:実行・実現可能性)に欠けるビッグプロジェクトと言わざるを得ない。


そうした中での、中国での建設というニュースである。


*)日本の国策:なぜ高速増殖炉なのか-原発運転で産生されるプルトニウムの行方
 原発運転すれば、一定の割合でプルトニウムが産生される。プルトニウムは化学的には猛毒である。高濃度に濃縮し起爆すれば、核分裂の連鎖反応が一気に起こり、原子爆弾となる。


*)プルトニウムの廃棄処理問題
 このプルトニウムを含む使用済み核燃料は、強力な放射能を避けるために処理をして地下深くに廃棄しなければならない。しかし国土が小さく至るところに人家のある日本では、青森県むつ市で処理しているが、最終廃棄場所は決まっていない。受入れる自治体はいまだ無い。


*)プルトニウムを再利用する核燃料サイクル
 もし高速増殖炉が実現すれば、核分裂で発生する高速中性子がプルトニウムを含むターゲットに衝突して核分裂を引き起こし、投入した以上のプルトニウムが産生される。このプルトニウムを再度核燃料として使用すれば、新たな燃料を補填すること無しに、永遠に原子力エネルギーを取出し利用することが可能になる。
 この燃料消費が新たな燃料を生み出し、永続的に運転継続できるという核燃料サイクルが実現すれば、(1)使用済み核燃料処理問題が解消し、(2)資源少国あるいは無資源国日本の永遠の課題:エネルギー枯渇問題から解放されることになる訳である。


*)高速増殖炉:液体金属ナトリウムという魅力的だがきわめて困難な冷却媒体の採用
 高速増殖炉は冷却媒体として、水ではなく金属ナトリウムを使用する。これが誰が見ても、取扱いがきわめてやっかいな代物(しろもの)なのである。


*)金属ナトリウム
 純粋なナトリウム(Na)、即ち、金属ナトリウムは自然界には存在しない。周期律表一番左端にあるI族元素は、金属であるがアルカリ金属と呼ばれ反応性が高く、自然界では必ず水や空気、大地や岩石成分と反応して、化合物(酸化物、水酸化物、硫化物、塩化物等)を形成し安定な物質になって存在する。だから反応以前の純粋な金属ナトリウムは存在し得ず、従って目にすることはない。
 子供の頃には、上野の科学博物館に空気も水分も駄目ということで、油に浸した金属ナトリウムがあるという話を聞いたことがあるが、本当かどうか知らない。
 もし金属ナトリウムが空気や湿気・水分と少しでも触れれば、たちまち激しく反応して発火し高温状況を誘発するというのは常識である。何故こんな危険な物を使うのか、かねてから自分には理解しかねるところであった。そして一般市民のみならず、多くの理系人間も同様な疑問を持つだろう、


*)なぜナトリウムか?-魅力的なナトリウム冷却
 ナトリウム(Na)の比重は水に近く軽い。融点100度C付近から沸点900C近くまで、液体状態での温度域が広い。金属だから熱伝導度は高い。原料は食塩(NaCl)など無尽蔵にあり、安価である。冷却機能性だけ考えれば、優秀な冷媒である。


さらに中性子との衝突・散乱・減速・吸収断面積が小さく、高速(高エネルギー)中性子を減速させることなく、熱交換でエネルギーを取出すと同時に、核分裂・プルトニウム生成反応に至らせることができる。
 現在の軽水炉で冷却媒体として使用している水(重水(重水素:Deuterium、三重水素:Tritiumからなる水)に対して、軽水=通常の水)は、高速中性子を減速させ熱中性子に変えてしまい、エネルギーは取出せるが、プルトニウム生成核反応は起こせない。
 言わば、光線(高速中性子)に対する透明性の高いガラス(金属ナトリウム)のようなものであり、加熱されるが大部分は透過する。それに対して水(軽水)は不透明なボードのようなものか。


液体金属ナトリウム系冷却システムはいかにも魅力的である。世界各国ともこのナトリウム冷却高速増殖炉の開発実現に取組んだ。


*)ナトリウム冷却系はフィージブルか?-もんじゅの断念、廃炉に
 このナトリウム冷却系のフィージビリティ(Feasibility:実行・実現可能性)はどうだろうか。
 世界中が取組んだが、中途でストップし、撤退した。日本のもんじゅのみが開発を続けたが、ナトリウム漏れ事故で長期間ストップし、最終的に廃炉が決定するに至った。冷却系での漏れという本願の核反応研究開発に入る以前の周辺技術の問題により、全体の開発・運転が進められず、にっちもさっちも行かない事態から最後まで抜け出せないままに終わった訳である。
 早期に撤退した諸外国も結局、同じ困難に突き当たり、克服できなかったものだろう。


このナトリウム冷却システムは、フィージブル(Feasible:実行・実現可能な)か?
-きわめて疑問である。

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