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いつも株を買っては損を抱え込む長期低迷投資家

高速増殖炉:日本断念、中国建設中と(3) -日本:粗漏な周辺技術とフィージビリティ検証。中国:原爆増産へ開発加速。

*)本論(核エネルギー取出し)以前の粗漏な周辺技術-失敗を繰返す日本の原子力
(1)原子力船むつ-放射能漏れ
 日本初の原子力船むつは、処女航海に出たところで、放射能漏れが発見され、その後の開発は当初の目標から大幅に遅れ、不調な事業になって終了した。
 別に放射能汚染を起こした訳ではない。出航前の試運転でこうした不具合を出し切って改善を済ませておくのは当然のことと思うが、できなかったのだろうか。お粗末な結果になった。
 ただ初めての試みでは、いろいろ予想しない問題が噴出するのはごく当たり前のことだから、困難点を克服すべく改良を重ね、ようやく本格的な海上公試に向かうべきところだろう。これが米国、ソ連(ロシア)、中国だったら、港に戻り修理・改善の上で、試運転を繰返したろう。
 しかし日本はそうは行かない。国土は小さく、至る処に人が住んでいる。情報は公開され、市民運動は活発である。軍事・防衛の比重が高い強権的国家体制ではない。
 そして、事(こと)は原子力である。なにかあればマスコミが大々的に報道する。定量的な観点を持って情報伝達する訳ではなく、悪いとか失敗というような言葉があると、すわっと飛び付き針小棒大に報道する。
 日本は民主国家である。反対運動が強ければ、選挙が気になる政府与党はそれ以上に強く出る訳には行かない。
 結局、原子力船むつは青森県むつ市に繋留され、開発は継続され試験航海もしたが、最終的に廃船となり、その後日本では後継の原子力船の話は二度と現れなかった。


*)原子力潜水艦
 数年前(2016)、豪州は潜水艦の更新にあたって、日本かフランスか競った末、仏製を導入することに決めた。しかし1年位経ってからだったか(2021)、既に契約済みであったのに、突然米国の潜水艦導入に決定を覆した。当然仏マクロン大統領は怒ったが、中国のインド太平洋地域への強権的膨張進出にとりわけ危惧を抱く豪州は、フランスに和解金を支払ってでも、米英豪の安全保障枠組みAUKUS(オーカス)の下で、原子力潜水艦を将来導入するという含みで決定したのは記憶に新しい。燃料補給の心配のない原子力潜水艦は、長期無寄港運転能力が求められる潜水艦特有の任務遂行に適している。


(2)東電福島原発-冠水・浸漬による冷却用電源の停止
 2011年の東日本大震災の津波で事故を起こした福島原発。別に炉心が爆発したとか、地震で原子炉が崩壊したとか、そういったことではない。
 冷却用電源が津波で冠水して(あるいは浸漬、水没か)停止し、そのために原子炉の冷却装置が作動しなくなり、炉心の温度が上がり融け落ちた(炉心溶融=メルトダウン)のである。
 何故水を被ったか-電源が地上階にあったからである。もし頑丈な建物の5階にあったなら、このような事態は起きなかっただろう。原子炉や建物は地震や津波に対して何も問題が起きなかったのだから。


*)地上階・地下階設置電源の防災脆弱性
 その後、原子力ではないが、東京郊外の副都心的立地で人気が高い武蔵小杉で、局地的豪雨に見舞われた時、高層マンションで停電が起きた。地下に設置されていた電源が予想外の増水により水没したためである。建物全体が停電になり、エレベーター、上下水道がストップし、全館麻痺に陥った。マンション販売会社としては利益率を上げるために、電源は売り物にならない地下に設置する設計にしたのだろう。電源が上層階に設置されていた建物では被害が無かった。ただそれだけのことである。


 現代社会では地震などで停電になると、照明、エレベーター、上下水道、電話、ネット通信など、なにもかもがストップする。
 最近では地球温暖化の気候変動と都市コンクリート化とが相俟って、局所的豪雨が頻繁に発生する。また大地震も結構よく起こる。防災対策を考慮しない建物は、いかにデザイン・機能性に優れた高額物件であろうと、本質的に欠陥のある配慮を欠いた設計であり、建設・販売会社の手落ちということになろう。


*)中国の住宅事情
 日本では、ホテルにせよ高層マンションにせよ、上層階のほうが見晴らしが良く開放感もあって、人気があり料金も高い。
 しかしたまたま聞いていたラジオのアジアンリポートであったかによると、中国では高層マンションの分譲価格は地上1・2階が一番高く人気があり、低層階から売れていくのだそうだ。停電その他の不具合が結構よくあり、その際の不便さをよく知っているらしい。確かにトイレ、水道、エレベーターが止まった時の水を抱えて階段の登り降りをするたいへんさは、日本では滅多に経験しないが、一度遭遇するとそのつらさは身に滲みてわかる。
 そう言えば、今は無くなってしまったが、寝台列車では下段が一番高く、中段、上段と上がるにつれ安くなるのは、世界中どこの鉄道でも共通のようである。


(3)高速増殖炉もんじゅ-冷却媒体ナトリウム漏れ
 燃料消費運転が新たな燃料を生み出すという核燃料サイクルを実現する高速増殖炉。資源少国日本は国策として開発に取組んだ。実験炉常陽に続いて原型炉もんじゅを建設したものの、冷却系のナトリウム漏れでストップしたまま、本来の目的の核燃料プルトニウム増殖核反応運転は、ほとんど実施できずに廃炉決定に至った。
 ナトリウム冷却システムについて、常陽で経験を積んだというのだが、フィージビリティの検証がきわめて甘かったと言わざるを得ない。


*)もう一つの視点:現代戦争-標的への安価なサイバー攪乱・無人機同時大量攻撃の可能性
 さらにここにきてもう一つ考慮しておくべき視点として、現代戦争の大きく変貌した様相がある。
 現時点でのウクライナ戦争を見ると、サイバー空間での攻撃・攪乱による都市機能の麻痺、にせ情報発信による宣伝戦、安価な無人機・ドローンを活用した簡便容易な無人攻撃など、戦争は様変わりである。それに比べ、ドローンに対するに防御用迎撃ミサイルの使用など、高価過ぎて経済的に全く合わないし、安価なドローンの大量同時攻撃には対応できないだろう。


*)露黒海艦隊旗艦モスクワの撃沈
 例えば、この種の典型例は、ロシアの黒海艦隊旗艦モスクワの撃沈に見られる。ドローンによる攻撃に幻惑されて防空防御体制が手薄になった隙に、ウクライナの地対艦巡航ミサイル「ネプチューン」の打込みが奏効したものらしい。


*)戦争時におけるナトリウム冷却システムの潜在的危険性
 原発や重要施設に対する外部からの意図的攻撃の潜在的危険性は、ウクライナ戦争以来、ますます高くなっている。発火性のあるナトリウム冷却系採用高速増殖炉は、ドローンによる大量同時攻撃の恰好のターゲットになる可能性がある。
 日本は安価なサイバー攪乱・無人機同時大量攻撃に対する防衛技術・体制は手薄なままであり、整備を図る必要がある。従来、高額な有人戦闘機、米国製迎撃ミサイルなどの配備に力を入れてきたが、サイバー空間戦略・無人機開発は戦略的・戦術的に、コストパフォーマンスに優れ効率的であり、今後その開発・整備に一層注力すべきである。


*)高速増殖炉の再開発が認証される条件:冷却媒体を一から見直し
 高速増殖炉開発は、世界中が失敗し、そして日本も失敗した。原型炉もんじゅ建設以前にもっとナトリウム冷却システムの信頼性あるシステムの確立を図るべきであった。それを徹底せずもんじゅ建設に進んだため、ほとんど運転できない無用の長物と化した-壮大な失敗-と言ってよい。
 ナトリウム冷却系高速増殖炉は商業炉として成り立たない。現代戦争の性格から言っても安全性を保証できない。-これ以上の開発建造は国費の浪費である、


 高速増殖炉の再開発を行うには、出発点から根本的に新しい概念の確立が必要である。
再度の失敗は許されない。
 事業再開の認証には、冷却媒体の抜本的な再検討が必要である。ナトリウムに替わる安定性・信頼性のある冷却媒体の検討・開発により、周辺技術の問題に足を取られることのないフィージブルなシステムの設計再構築が必要である。


*)新型原子炉:今は高速増殖炉よりも核融合炉のほうが早いというのが衆目一致するところ
 ナトリウム冷却系高速増殖炉開発の困難さは、世界的によく認識されているのだろう。今は高速増殖炉よりも、一足飛びにその先の原子炉と考えられていた核融合炉実現のほうが早い、というのが衆目一致するところのように思われる。最近、小型核融合炉の開発を比較的短期間に進めるプロジェクトというようなニュースをよく聞くようになった。


*)中国の高速増殖炉建設-目的は日本とは異なる
 中国では福建省で高速増殖炉を建設中というニュースである。


*)市民の原発反対運動など無縁な中国の原子力政策
 中国は資源強国・資源原産国である。別にエネルギー源にそれほど逼迫している訳ではない。また中央集権の強権的国家体制であるから、市民運動による原発建設反対などは気にしなくてよい。国土は広いから,原爆実験もできるし、原爆開発科学者は英雄視される。


*)目的は核兵器材料の増産
 中国の高速増殖炉建設の目的は、原爆に用いるプルトニウムの生産、核兵器の原料造り、
高濃度プルトニウムのより効率的な増産・集積である。


*)もし実現なら、世界初の相当な技術レベル
 もし中国が高速増殖炉の実現に成功するなら、世界初の相当な技術的レベルである。
どのようなものになるのか、筆者は関心をもって見守る。

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